「鳥ってすごい!」樋口広芳著 2019年7月18日 吉澤有介

山と渓谷社ヤマケイ新書2016年3月刊 著者は、東京大学大学院農学系研究科博士課程を修了、ミシガン大学動物学博物館研究員を経て東京大学大学院農学生命科学研究科教授となり、現在は名誉教授。慶應義塾大学特任教授で。鳥の生態、進化についての多くの著書があります。日本鳥学会の会長でした。

鳥は空を飛ぶ動物です。チョウやトンボなどの昆虫や、魚のトビウオ、哺乳類のムササビも飛びますが、鳥ほど巧みに、長時間、長距離を飛ぶ動物はいません。鳥は徹底した飛行物体につくられています。前足の羽毛を大きな翼に変えて、飛ぶ力を生み出したのです。

体の構造は軽量化と頑丈さを兼ね備え、脳を発達させて運動能力を強化しました。最新の航空機のオスプレーは墜落することがありますが、鳥のOsprey(ミサゴ)は決して墜落はしません。鳥は体の表面を羽毛で覆って空気の流れを整え、また体温を恒温に保ちます。恒温性があって、はじめて長距離、長時間の飛行ができるのです。鳥たちは雪の中でも氷の上でも平気で、―35℃の状況でも42℃の体温を維持しています。飛行時間も最近のGPSデーターロガーの測定で、200日間を無着陸で跳び続けたツバメの仲間がいました。時速は、20~30㎞が普通ですが、最高記録ではハヤブサの急降下で、380㎞もあったそうです。

羽毛は皮膚の組織が角質化したもので、祖先の恐竜から引き継いで進化してきました。羽毛は鳥の最大の特徴です。繊細で極めて軽く、しなやかで丈夫です。その役割は、飛ぶための風切り羽や体温の保持、体表面の保護だけでなく、異性にアピールする飾りにもなります。

鳥はとてもお洒落で、赤、青、黄、白、ツートン、マルチと色とりどりです。メラミンやカルテノイドなどの色素に加えて、羽毛の微細構造による光の反射、増幅、干渉、吸収などで美麗な構造色をつくり、その視力の良さは、紫外線領域までの色覚を持っているのです。

鳥の多くは雌雄でつがいになって繁殖します。他の動物にはほとんど見られない大きな特徴です。これには明らかな理由がありました。鳥は巣をつくって卵を産み、温めて、雛を育てます。生まれたての雛は、食欲旺盛でエサをねだります。この子育てはとても雌だけにできるものではありません。一方、雄は自由に多数の雌と交わって自分の遺伝子を残せますが、雌一羽だけでの子育てが困難であれば雛は育たないので、せっかくの自分の遺伝子は残せません。雌のもとにとどまり、子育てに参加する必要があるのです。しかし、つがいの在り方は多様で、一回限りで相手を変えることが多く、同じ相手であったのは27%という例もありました。婚外交際の不倫?も多く見られます。オシドリも例外ではありません。

また鳥は長距離の季節移動、渡りをします。目的地は、何丁目何番地までと精確です。衛星追跡されたシギの仲間は、何と繁殖地のアラスカから越冬地のニュージーランドまで、11700㎞を8日間で飛んでいました。なぜ渡るのか、経路がなぜわかるのか、豊富なエサを求めて、太陽や星座を目印にしているようですが、渡りはなお謎と驚きに満ちています。

カラスの賢さは、よく知られています。人の顔を覚え、道具を使い、試行錯誤しながらさまざまな行動をします。滑り台で遊び、テニスまでするのです。鳥の霊長類ともいえるでしょう。著者は、鳥たちの世界に深く感動しています。その楽しさがよくわかりました。了

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